遺産分割協議書に見る士業バイアス

鹿児島県南九州市川辺町の司法書士・行政書士事務所 司法書士の峠坂洋昭です。梅雨になりそうで蒸し暑い日が続きます。

さて、本日は少し専門的なお話をさせていただきます。遺産分割協議書のお話しです。

昨今、お仕事を様々な方からいただけるようになって、弁護士・税理士・社労士・行政書士等の先生とお仕事をする機会があるのです。諸先生方のお立場やお仕事を批判する気は全くないので、それを承知したうえで、読んでいただけると助かります。

結論からもう上げると、どのような専門家であろうとも、その専門分野に特化した見方(バイアスがかかっている)しかできないのであり、すべての専門性(弁護士の紛争性、税理士の税務性、司法書士の登記性)を充足する書面を完璧な1通にまとめ上げることはできない

遺産分割協議書がその代表である。

弁護士の先生は遺産分割の合意を整えるとき、将来、訴訟に再度持ち出されたとき、証拠としての価値がどの程度か、再度紛争にならないようにするにはどうしたらいいか。分割協議書で漏れている重要な事項はないのか。主に「訴訟」(合意または仲裁といってもいいと思われる)の観点から、遺産分割協議書はどのようなものがよいかを思料しているように思われる。もちろん、日本最高の文科系国家資格であり、各専門士業への気配りもできているので、問題となることは少ないのであるが、その思考トレンドの主なものはやはり訴訟である。

税理士の先生は遺産分割協議書を見るとき、国税局がどう見るかが真っ先に脳裏をよぎる。税務調査に立ち入られたとき、税理士としてクライアントの横に立ち、税務官に対してクリーンな説明ができるか?記載された金額は明確か?署名の日時はいつか?相続税の申告期限を意識して書いてあるか?不明瞭な資金をうかがわせるような記載はないか?実際の入金記録とあっているか?

司法書士はどうか?私たちは法務局の登記官になりかわり事前に登記が通るかどうかを審査するのが仕事です。遺産分割協議書を見るとき、法務局の登記官が登記を通してくれるか?その一点に尽きる。

例えば、遺産分割に代償文言(土地をAにやるかわりに現金をBの指定する口座に振り込む)を記載することがある。

法律の専門家として、代償金がAからBに実際に支払われたかどうかを見届ける義務は、もちろん、司法書士にもあるのであるが、こと、登記が通るかということからすると、登記官は書類さえ整っていれば申請を通してしまう(実際に代償金が支払われたかどうかまで調査をしない)ので、おのずと遺産分割協議書の書き方にも差異がでてきてしまう。登記官は形式的審査権しかないからです。

そこで当事者(クライアント)の立場にたつと誠に不便ではありますが、実務をスムーズに遂行するには、遺産分割協議書をはじめとする書面は「監督官庁ごと」に整えるのが一番であるとの結論に達してしまう。

遺産分割協議書は本来1通であるが、弁護士用(裁判用)の遺産分割協議書、税理士用(税務提出用)の遺産分割協議書、司法書士用(登記用)の遺産分割協議書を整えるのが通例化してしまうのである。

当事者(クライアント)にはご迷惑をおかけいたしますが、なにとぞご理解賜るようお願いいたします。